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引き裂かれた偽りの空



 耳元がざわざわとするのは風が頬をなでていたから。
 目の前がちかちかすると思ったのは木漏れ日だった。
 

「まじかよ」
 それは声になったかどうかはわからなかった。
 瞬きをし、目を凝らすと目に入ってきたのはくっきりと切り取られた木のこずえ。
 
 自分はジャイアント一本竹の頂上にいたはずだった。だが、どう考えても今いる場所は地面。
 いくら木々がクッションの役目をしてくれたといっても、常識で考えたらそれですむはずはないのはすぐにわかることだった。

 通常の人間であればどうなっているか考え始めるよりも先に、リキッドは自分の細胞の一つ一つが恐ろしい勢いで修復再生されていっているのに気づいた。
 


 彼は自分の腕があらぬ方向を向いて曲がっているのを戻そうとし、指先を動かした瞬間痛みが全身に走った。
 だが、痛いと思ったのはほんの数秒のことで、潮が引くようにリキッドの体から失せてしまった。次に少し強めに力をこめただけで腕は元の角度に戻った。

「っぁー痛かったぜ」
 声が出たのと体の修復が終わったのはほぼ同時だった。
 手をゆっくりと木漏れ日に掲げると赤くすけた指先が見えた。
 
 それくらいは自分でなんとかしろといわんばかりに、とっさにとった無謀な行動をたしなめるかのように表面にいくつかの切り傷があったが、血は滲んではいかなった。

 どうら自分は年をとらないだけでなく、これくらいでは死ぬこともできないらしい。



「オレ何してたんだっけ」
 足が地面にちゃんと立つことを確認したところで、彼は自分がなぜあんなに高いところから落ちたのかということを考え始めた。
 
 粉々に砕けていた方の腕の先を見ると、一枚の紙切れがあった。

 突然の閃光とともに空から舞い降りた巨大な鉄の塊。
 
 それが起こした風がさらって行ってそれを取り戻そうとして落ちたのだ。


 バッカじゃないのー。


 そこにいるはずもない短冊の主の声がした。
 大好きな友達といつまでもなかよくしたい、という子供のささやかな願いが書かれた紙切れ。

 いつまでもと願うはたやすい。
 
 これがいつまでも続くわけではないとわかっているが、終わるときがくるのを信じたくない。

 自分を振り落としたのはあの白金の翼が起こした風ではなく、信じたくないという弱い心だ。

 あの子供が来たときの困惑はいつの間にか消えていた。
 あの子供がいなくなるということが頭によぎったとき、寂しいだけでは言い表せない感情がわきあがり、気がついたらここにいたのだ。


「いかなきゃ」
 リキッドは体を起こした。
 もう痛みも動きの不自然さもなく、立ち上がると手中に残っているものをもう一度広げて確認した。
 
 これからどうなるのか考えるヒマはない。
 たとえここが仮の楽園だったとしても、守らなければならないものもある。
 それが予想もしていなかった来訪者であったとしても。

 どんな未来と結末が待っていようと。



Happy Birthday LIQUID 2007





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