□□□
□□





Gate KeeperS II



 子供がまどろんでいた。
 黒い髪で…長いまつげを閉じて…丸くなった体の中に閉じた掌を抱え込んで。
 
 ヒトであれば、とっくに母の胎内から出ているところまで成長しているにもかかわらず。
 
 育てる『親』を持たないのだから、こうしているのが一番安全ではある。
 今そのまま出ても、非力な子供の姿のうちは彼の本来の役目を果たさないいのだから。

 それにしても。
「ジャン…」
 彼を内包している光の球体に向って呼びかけてみた。

 中の子供に届いたかどうか判断することはできない。
 こうして見つめているだけでも、彼の細胞が分裂を繰り返し本来の姿を戻そうとしているのは分かるというのに。
 

 いや、どこかが違う。

「こんな…はずはない」
 人間の姿を模しているだけのジャンが人間と同じ年月をかけて構成されるわけはない。
 なのに、何故ジャンは未だにこの姿なのだろう。
 無力な子供。
 彼本来が持っている力に押しつぶされかねないほど、完成には程遠いこの姿で…未だにいるのだろうか。

 
 掌で彼を包み込んでいる球体に触れてみた。
 激しい反発はない。
 チリチリと掌が焦げていくような感覚が、対極に立つものから己を守ろうとする意思があることをかろうじてアスに告げていた、が…それだけだ。

「それだけですか?」
 あまりにも弱弱しい主張。
「今のあなたを肉塊にするのはたやすい」
 さあ、どうする?このままの姿でいるのか?
「あなたが守りたかったものが消えていくのをそこでそうやってみているのですか?」 
 頭の中で何かが膨張しはじめる。
 破裂しそうな痛みが頭の中心から広がる一方で、目の奥に生じた赤い光が網膜を焼き始めた。
 拡張続ける赤い光が回っていく先々で、血管が膨張し、肉が崩れ、骨の一つ一つが砕けていく。
 赤い炎が己の頂点まで包み込んだとき、アスは我に返った。

 的確に最奥にあるものを攻撃できる力がジャンにあるはずがない。
 …彼を守ろうとする意思を持つもう一つの存在。
 
 
「こんな子供だましで私を止められると思ったのかっ!」
 
 まどろむ子供は何も答えない。
 母の胎内に守られているかのように安穏とした眠りの中に尚もい続ける。


 そういうことか…。

「そこで眠り続けるがいい」


 青の悪夢はもはや止められない。








□□
□□□