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正しい余暇の過ごし方 「ハーレム、帰ってたのか」 甥に声を掛けられ振り返った瞬間、ハーレムの動きが一瞬止まった。 「ああ、キンタローか」 「どうしたんだ?」 「飛行船の故障だ。パーツが本部にしかない部分だといわれてここまで来ただけだ」 「特戦部隊の船は汎用性のない部品ばかり使ってるからな」 「いうぜ」 二人は長い廊下を並んで歩いていく。 「ハーレム」 「んあ?何だ」 「オレは何かハーレムに悪いことでもしたのか?」 「突然なんだ」 「ずっと避けられている気がしていた」 「おめぇなあ。それは被害妄想だ。避けるも何もオレの仕事からして一箇所にいないのはあたりまえだろうが」 「…でもハーレムはたまに本部に帰っても…」 「オイオイ。本部に帰ってくるのは『仕事』の一つだからだ」 「たまにはかわいい甥っ子に会いたいとか思わないのか?」 「あのな。それが通じるのは10歳までだぞ。でかい図体して気持ちの悪いこと言うな」 ついつい大きくなっていく声音に、途中ですれ違う団員たちが体を竦めて敬礼し、恐る恐る見送っていた。 「おまえね。サービスにもそんなこと言ってんのか?アイツこそオレよりもガンマ団に寄り付きもしねぇし、しかも行く先知らせることの方がまれなんだぜ」 「いいや。オレはただハーレムがせっかく帰っているのに会えずに行かれるのがつらいだけで…」 なりは立派な成人でも中身は子供だ。子供が親を慕うようなものなのだ。 『生まれた』ばかりのころ、最初にコイツを拾ったのは確かにオレだが…アイツらちゃんと教育してんのかよ、とふと不安にになった。 高松やグンマが手放しで褒めまくる頭蓋骨の中に詰まっているのは数式と設計図かよ、と思ってしまう。 「おまえ、ちったあ外に出てるか?団内ばっかいたら頭コチコチになっちまうぜ?」 「あ…いいや…考えてみたら」 「だろうな。いいことがある」 「オレはギャンブルで身を持ち崩したくない」 こんなかわいげのないことを教えたのは絶対に高松だ。 しかも自分がしようとした意図がきっちりと当たったのがますます気に食わない。 「叔父様はもうてめぇとは遊んでやらん」 プイ、と背中を向けるとすぐにキンタローの声が後ろからおいかけてきた。 「待ってくれ、ハーレム!一万円以内なら付き合うから」 その言葉に足早に去ろうとしていたハーレムは立ち止まった。 「んー?そうか?」 「ああ。だから…」 財布の中身を確認するキンタローは、ハーレム口から長い舌がヘビよろしくはみ出ているのに気づいていない。 楽しそうに甥っ子を連れて競馬にいったハーレムが、数時間後出かけた時とは大違いの沈んだ表情で団に帰ってきた。 「まってくれ、ハーレム!」 その後ろを慌てて追いかける同行者のキンタロー。 「叔父様は気分が悪い。よって部屋に帰って寝る」 「風邪でも引いたのか?それなら高松のところで薬を…」 「冗談じゃねーっ!オレはとっと酒飲んで寝るっ」 取り付く島もない、というのはこのことだろうか、と……一万円の元手を100倍近くにして戻った甥は、数日前に読んだ本にかかれてあったことを思い出した。 いつもの結果に終わった叔父の寂しそうな背中の意味を彼が理解する機会があるかどうか…今のところ不明である。 |
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