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古毛四と乙女


今日もウマ子は大地にその足音を轟かせ、土煙を上げながら恋しい人のいる家へと向かった。

「リッちゃーーん」
 彼女は恋しい人の家のドアをノックした。
 哀れなドアは最初の一撃…ならぬノックで吹き飛び、中で本を読んでいたちみっこ二人とチャッピーが振り返った。
「ウマ子ちゃんおはよー」
「うむ」
「わう」
 もうすっりと慣れっこになった光景に誰も動揺しない。
 どうせこれの修理をするのは今クボタ君の卵をとりにいっている家政夫なのだから誰も気にしない。

「おや、リッちゃんは留守かいのぉ?」
「リキッドなら食料を取りにいってるよ」
「食べ盛りの子たちに食べさせないけんからのぉ。リッちゃんも大変じゃ」
 リキッドの一日の大変さの半分を担っている本人はしみじみと頷いていたが、ふと何か思いついたらしく顔を輝かせた。
「わしも手伝いに行ってくるかのお。まっておれよ、ちみっこたち。
わしがまたうまい精のつくもんとってきてやるきのぉ」
 ちみっこ二人+チャッピーに満面の笑顔を向けて、ウマ子は来たときと同じく、いやそれ以上の馬力で外に飛び出していった…時だった。
 何かが盛大に崩れるような音がし、『こりゃしもうた』というウマ子の声がそれに続いた。
 まさか何か壊されたのでは、と中の二人+一匹が外を覗いてみると、ウマ子が倒れてしまった木製フィギュアを立て直しているところだった。
「どうしたんだ、ウマ子」
「慌てて、全部ひっくり返してしもうて…」
 特大サイズの木製フィギュアの一つにつまずいたため、残りの三体も全部道連れにひっくり返てしまったと、彼女は説明した。
 最後の一つ、恨みがましそうな陰の篭ったコケシを建て直したところで…
「こんなもんでいいかの?パプワ君」
 彼女は家の主に尋ねた。
「おう、そんなもんでいいぞ」
「傷もついとらんようにあるし」
 ウマ子はコケシの表面についた泥をぬぐってやる。
「やさしいんだね、ウマ子ちゃん」
「やっぱり人様の家のもんじゃし。それに…」
 ウマ子は最後の一番大きな木製フィギュアの顔をぬぐいながら言った。
「兄さんの面影があるしのぉ。むげにはできんのじゃ」
 二人と一匹、三体のコケシが意外そうな顔をし、そして残りの一体が顔を赤らめる。
「よし、これで綺麗になった。ほんじゃあ行ってくるけんのおー」
 きたときと同じように地響きを…今度はコケシを倒さない程度に響かせながら走り去るウマ子。
 そこにいる者たちは、やがて追いつかれ捕獲されてしまうであろう哀れな家政夫のことを思い同情しつつ、ウマ子の意外な一面に驚きを隠せないまま彼女を見送った。
  顔を赤らめ、ともすれば鼻血をたらしそうな一番大きな木製フィギュアを除いて。



ウマ子ちゃんの広島弁は嘘っぱちなので、ツッコミはご勘弁を






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