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大きなタマネギの大きなお世話 「うぅ〜〜〜〜」 ちゃぶ台の上に一品だけ残った皿を目の前にロタローは唸り続けている。 彼の目の前にあるのは…オニオンサラダ。 薄くスライスして丁寧に水でさらしたそれはタマネギ独自の辛味もなく、パプワはおいしいといって食べてくれたのだが、いかんせんこのおぼっちゃまは箸をつけるどころかこの世の果てまで持って言ってといわんばかりに突っぱねた。 が、日ごろから食べ物のムダに関しては口を酸っぱくして言い聞かせている家政夫ことリキッドは今日ばかりは許してくれないらしい。 「幾らオレをにらんだってダメだぞ。今日ばっかりは食べてもらうからな」 「そうだロタロー。おまえは常日頃野菜不足だからな」 ロタローは上目遣いでさっさと食事を終えたパプワを見たが、今日ばかりはいつもロタローの味方をしてくれる彼もダメ。 「ボク、タマネギ食べたくない」 頬を膨らませたロタローに、リキッドが叱りつける。 「まぁたそれを言うか!」 秘石眼が暴走したらどうしようというリキッドのいつものへっぴり腰は、どこへ行ったのやら。 「タマネギなんて…タマネギなんて…ボクが王様だったら、一番先に絶滅させてやりたいくらいに大嫌い!」 普通の子供が言えばまだ笑えるが、いかんせん言っている相手はロタロー、こと青の一族最強の力を持つコタロー。 シャレにならんことを…と一瞬ひるんだリキッドだったが、やはり家政夫としての使命の方が上回った。 「タマネギ食べないと大きくなれないぞ」 ついに好き嫌いの多い子供への常套句を口にしたリキッドだったが、突然開いた扉とそこから現れた侵入者にあっさりと否定される。 「んなこたぁねぇぞーリキッド。オレはタマネギ食わなくても背ぇ伸びたぜぇ?」 やってきたのは最っとも悪しき実例、こと獅子舞様。 何もこんなときにこなくても…とリキッドは毎度毎度食事時をねらってくる元上司をにらむが、相手はそんなことには何も気づいていない。 「ハーレムおじさんみたいにボクも大きくなれる?」 「なれるぜぇ。おめぇはでかくなる。このオレが保証する」 いつもだったら、『おじさんの言うことなんて宛てになんないよ』とかいうくせに、今日ばかりはロタローは素直だ。ハーレムとリキッドの力関係をすでに熟知しているらしい。 まぁ…確かにこの叔父とあの父とあの兄の体格を考えたらロタローもゆくゆくはかなりの身長になるだろうけど…。だけど………それとこれとは別だ。タマネギは保存も利く応用もきく実にありがたい食材だ。それを食べれるようになってもらわないことには……。 「あのな、ロタロー、タマネギたべなくても背は伸びるけど、結局困った大人になってしまうんだ。だから…」 「あん?随分と言ってくれるじゃねぇかよ、リキッドちゃんよお」 眉間に皺のよった獅子舞の顔に気づいてももう遅い。 一応遠まわしに言ったつもりだが、ハーレムにはストレートに伝わったらしくリキッドはまたもや自分が墓穴を掘ったことにようやく気づいた。 「ひっ…すんませーん隊長ぉぉぉ」 未だに抜けない下っ端根性のおかげで逃げることもせずなすがままにヘッドロックをかまされているリキッドを尻目に、チャンスとばかりにロタローは外へ飛び出していった。 「こら、ロタ…ローーッ」 パプワも、またあえなくついえた「ロタローにタマネギをたべさせる」というリキッドの思惑に何もコメントせず、チャッピーを伴って外へと出て行く。 「あんた、オレに何の恨みがあるんすか」 「あー?なんのことかなぁ」 「なんでうちの食卓事情に文句つけるんですかっ。ちみっこたちの教育にも悪いでしょ」 「甥っ子をタマネギの魔の手から救って何が悪い」 「魔の手じゃねぇだろ、オッサン!あんたとこの甥っ子の偏食でオレがどんだけ苦労してるかわかってんのかぁ〜」 「さあ、わかんねぇなあ」 すっとぼけた顔でタバコをふかすハーレムにリキッドは肩を落とした。 もう諦めの境地だ。 あの甥ににしてこの叔父、この叔父にしてあの甥。 だが、次のハーレムの一言でリキッドの頭の中で血管が思いっきり切れた。 「ところでリッちゃん。腹減ったんだけど」 「そこにあるの食べてください」 リキッドが指差すのはロタローの残したオニオンサラダ。 「オイ、ふざけんじゃねぇぞ」 「うちには今それしかありません。それがイヤなら夜まで待っていてください」 「ざけんなーっオレは腹が減って…」 「ないものはないっ。そんなに他のものが食べたかったら食材持ってきてから言うんですね」 「てめぇ…いつからそんなえらそうな口が利けるように…」 「ちなみに今夜のメニューはオニオンソテーとオニオンスープです」 見れば台所の片隅にあるかごの中には大量のタマネギ。 右手に包丁、左手にタマネギを持ったリキッドがにこやかに笑う。 「オレ、ロタローにたまねぎ食わせるの諦めてませんから。 それでよかったらどうぞ食べにきてください。お待ちしております」 目の前に突き出されたタマネギに、歴戦の戦士が後ずさった。 ハーレムは、 「……ジャ、ジャマしたな!!」 とだけ言うとドアを慌しく開けて外にでていく。 家政夫の執念が、かつての上司を打ち負かした瞬間であった。 2005/08/15 一部加筆・修正 |
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