□□□ □□ □ |
|
||
|
今日も朝から聞こえてくる弟子が口ずさむ能天気な歌に頭痛がする。 元々士官学校に行かせるつもりはなく、実戦に耐えうる力がついたら特戦部隊に入れるつもりで鍛えてきた弟子に『春から士官学校に入るように』と総帥直々に命令が来た。 それをアイツに伝えた日から、毎日…さすがに訓練中には歌わないが、掃除洗濯炊事のときにずっと歌われていてはさすがの私も気がめいる。 友達100人できるかな? の後、一瞬間が空く。 そういうときは顔を赤らめており、すぐに我にかえっるのだが、すぐにうっとりとした…いや恍惚とした表情を浮かべて 『友達ひゃくにん…』と呟く。 この不気味な歌がコイツが仕官学校に入学するまで聞かされるとなると…歩いて大陸の沿岸部まで行かせて、そこから泳いで海を渡らせてやろうかという考えが浮かんだ。 今から行けば入学式のころにちょうどいいはずだ。 だがしかし、そういうわけにも行かない。 ので、とにかくなんとかしなければ…と思い、私はそれまで気になっていたことを問いただしてみた。 「アラシヤマ」 アラシヤマは家の前で、巻き割りをしていた。 「へぇ」 「おまえが一日中歌っている歌に出てくるフジサンというのは何だ?」 「日本で一番高い山どす。標高が3776メートルありますのや」 「山だったのか。その数値は確かか?」 「間違いおまへん」 「日本の子供は就学と同時にそんな高い山に登らねばならないのか?」 「そ、そないなことは…あらへんけど」 「だが、おまえは毎日繰り返し『フジサンの上でオニギリを』と歌っているではないか」 「そ、それは…」 「年端も行かない子供に3000メートルを越す山の登山を課すとは、日本とはすごい国なのだな」 そうか。そんな国から来たのなら…と弟子のことを見直しかけていた私の横で、アラシヤマは途方にくれた顔をしていた。 何度か話しかけようと試みていたが、私が『何だ?』と切り返すと黙ってしまった。 そして『異文化交流はむずかしいおす…』と肩を落として、中断されていた薪割りに戻った。 その後ろ姿に哀れさを感じた私は、ここはやはり励まし…いやそういう柄ではないのが分かっているので激を飛ばすことにした。 「アラシヤマ。どうせ目指すならだ」 へぇ…と気のない返事をしながら薪を置いたアラシヤマに、私は一呼吸おくと、続けた。 「日本一高い山といわずに世界の最高峰を目指せ」 狭い島国で一番よりも世界の…って何故そこで斧を取り落とす! 「え、エベレスト…どすか?」 「そうだ」 さすが、我が弟子。勉学も叩きこんだ甲斐があった。 「師匠はわてに登山家になれとでも…」 「おまえは登山家になるために私の元で修行したのか?」 「いえ…」 そうだ。私は一流の殺し屋になるために弟子を鍛えてきたのだ。 アラシヤマならば…と…。 またアヤツの周りの空間が薄暗くなっている気がするのだが…。 まあよいか…いつものアイツに戻ったことだし。 拍手ありがとうございました アラシヤマの京言葉にツッコミはご勘弁をm(__)m |
|
|
|
□ □□ □□□ |