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Project G 「あ〜?んなもん便所の紙にしちまえ」 「そういうわけにはいきません」 モニターの向こうで直立不動で答える部下を説得しても同じ答えしかかかってこない、もしくは完全なる沈黙しかないのが分かっているハーレムは、たった一度の問答で諦め半ばヤケ気味に『もってこい』と命じた。 本部から丁寧に『緊急』と『大至急』の文字がトップに印刷されている通信文が大量に吐き出されてくるのをみつけたのはGだった。 これを見たのがロッドであれば見なかったことにして立ち去るだろうが…彼はそれをきちんと一枚ずつ丁寧にそろえバインダーにとめた後、緊急の通信文がきている旨を上司である特戦部隊隊長ハーレムに伝えるため内線をとった。 特戦部隊は、本日午前十一時をもってミッションを終了した。 後は日本支部に帰還するだけである。 しかも珍しく次のミッションは入っておらず、しかも本部に到着後三日間の休養期間があるというラッキーな日だった。にもかかわらず、内線にでたハーレムの機嫌は最悪だった。 もう休養期間に入っている今、私室で何をしていようがどうのこうのといわれる筋合いはない。 だが、飛行艇はいまだに空の上。めざすドックの到着は5時間後。そうなると普段戦場でそそけだっている神経を沈める手段は限られている。 まだ幼さを残しているリキッドあたりは誰にも邪魔されずに睡眠をむさぼるくらいで済むので平和なものだった。 ではリキッドよりも年長の連中はというと…悲しいかな彼らが憂さを晴らせるアイテムは酒しかないのである。 だが、無事にドッグ入りするまで何が起こるかわからない状況ではおちおち飲んでいられないのが現実。 仕方なしに地上に戻ってからのプランを頭でめぐらせることで紛らわす。 だが、一人だけ例外がいた。 酒を飲んでも誰も文句を言う者もいないし、ちょっとやそっとではつぶれないつわものが。 ハーレムの酒量が桁外れなのは隊の内部だけでなくガンマ団でも有名である。 しかも、半端じゃなく強い。そのことは当然総帥であり実兄でもあるマジックにも知られている。 おかげで彼は多少の飲酒…どころかかなりの量を飲んでもろれつが回らなくなるということはない。 だが…今日ばかりはそうはいかないようだ。 マジックもそれをちゃんと見越していたのだ。 それにもかかわらず…。 総帥も間が悪い…。 総帥直々の文書であることを示す印を見てGはため息をついた。 ハーレムの私室のドアをノックし、返事を待って入ったGが見たものは…破かれた大量の外れ馬券。そして毎度のように酒の匂いと紙くずの海の中心でハーレムがけだるそうにタバコをふかしていた。 本日は彼のお気に入りの馬が出走するレースがある日だった。 彼はここ数年その馬に入れ込んでいて、レースに出るたびにとんでもない金額をつぎ込んでは、競馬場の利益にしていた。 当然競馬中継が始まったら最後…戦争でもおっぱじまらない限りダメである。 悲しいことかな。特戦部隊には通信オペレーターというものが配備されていなかったのだ。昔はいたかもしれないが…。 音声や警告ランプ、映像できたものなら目や耳にとまるだろうが、勝手に吐き出された紙にすぐに気づくものがいるとは限らない環境で…ましてや休暇期間となった今誰がみていることやら。 悲しいかなマジック総帥の計算はほんのちょっとばかり狂っていたのだ。 秘書ティラミスが出走時間までにと必死に連絡を取り続けていたが、オートパイロットで操縦されている飛行船のコクピットの番人、ロッドは居眠りを決め込んでいた。 彼の器用な耳はエマージェンシーコール以外のものを完璧にシャットアウトしており、時間ぴったりに次のGに交代した。 そしてようやくつながった時には…隊長ハーレムがロマンを注ぐ相手ケンタウルスホイミのレースは終わっており、かくして弟が自棄酒に走る前に重要書類に目を通させようというマジック総帥のもくろみはもろくも消え去ってしまった。 やってきたGをハーレムは面倒くさそうに一瞥し、無言で差し出された書類を手にとる。 「くだらねぇ」 何が緊急だ、大至急だと悪態つきながらハーレムは目を通すはなから床に投げ捨てていく。 捨てられた書類を拾ったGが見たものは…。 『シンタローくんお誕生会のお知らせ』 …総帥マジックの息子にして、ハーレムの甥にあたるシンタローの22歳の誕生会のお知らせ身内版と、『シンタロー生誕二十二周年にあたり』…その後三日間にわたって行われるガンマ団内式典のご案内だった。 ご丁寧にも小さいころからのダイジェスト写真に加え、この一年間の歩みまでプリントされてある。 そしてみっちりと書き込まれた秒刻みのスケジュール。 額に青筋を立てながらもなんんとか残り三分の二のところまで目を通したハーレムについに我慢の限界がきた。 「やってられっかー!」 の雄たけびとともに、一瞬にして大量の紙くずと化した『大至急』の『重要書類』が部屋の中を舞う。 「オレぁこんな紙切れ見なかったからな。おまえも忘れろ」 ついにハーレムはソファにひっくりかえり不貞寝にはいってしまった。 Gはいびきをたて始めた上司の寝姿に一礼し、コクピットに戻った。 飛行艇は順調に目的地に向かっている。 歓楽街のガイドを見ていた同僚や、久々に弟子と会えると行っていた同僚や、新しいビデオが届いているはずなんだーと喜んでいた同僚の顔が一瞬浮かんだが、彼は瞬時に忘却のかなたに葬り去った。 そして黙々とコンピュータに何か入力し始める。 すべて入力し終わった後、彼は椅子の上にどかんと腰を下ろし、計器との睨めっこに入った。 ガンマ団日本支部到着予定時刻……。 特戦部隊の面々は衝撃音と振動に度肝を抜かれ、次の瞬間にはそれぞれの部屋から飛び出してきた。 「な、な、なんだこりゃー」 開け放たれているハッチから見えるのは狭い島国とそこの支部ではなくて、どこまでも続く平原。 「不時着しました」 口をあんぐりとあけているメンバーの後ろで、コクピットの当番だった男が隊長に報告していた。 「不、不時着って…ここはどこだよっ」 詰め寄ったロッドにGは短く 「…………………………………………………アラスカ」 とだけ答え、以下沈黙。 「げー!!おりゃ今日の8時に〜キョーカちゃんと…めぐみと…」 「ビデオ…楽しみにしてたのに…」 「…弱ったな。今からアイツに連絡はとれるものだろうか」 三人が三様の焦りと慌てぶりを見せている中、ハーレムは苦笑しながら広いアラスカの大地を眺めていたが、コクピットに引き返すGが自分の横を通るとき、ポンと肩をひとつたたいた。 そのころガンマ団日本支部で、総帥親子の派手な眼魔砲の応酬がありセレモニーホールが吹っ飛ぶという騒ぎがあったが、アラスカの大平原で補修班を待つ彼らの知るところではない。 The End |
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