□□□ □□ □ |
|
||
|
After 0214 「だからぁ、リッちゃんオレらを『チョコパーティ』に呼んでくれなかったでしょ?」 島のみんなを招いたパーテイの数日後、呼ばれなかったうちの一人が、食料を採りに行くリキッドの後ろを付いていきながら、よく回転する口で延々と恨み言を述べている。 「あのな、ロッド。おまえら『チョコパーティ』って柄じゃねぇだろ!」 チョコよりも酒盛りのオッサン四人を招いてどうするよ。子供もいるんだしよといわれた一瞬だけ、ロッドの舌はとまったが、すぐにさっきの回転を取り戻して続ける。 「のけ者にされたオレたちの小さなガラスのハートが痛んでるのも気づいてくれないんだ、リッちゃんは…」 シュンとしょげたしなを作ったロッドに、今更惑わされるリキッドではなく、 「核シェルター並みの強度の心臓の持ち主にそういわれてもなんとも思いません。邪魔するならさっさと帰った帰った」 たどり着いたりんごの木の下で、よじ登ってたわわに実った果実に手を掛けようとしたところ、 「一番しょげてたのはハーレム隊長だよ。かわいそうにさぁ〜せっかくの…」 「誕生日祝ってもらえなかったっていじけてたとでもいうのかよ、あのオヤジが」 相手にすまいと思いつつ話しかけられたらつい返事をしてしまうあたりが、まだまだ甘いリキッドに、ロッドはさらに切々と昨日の自分たちの周りであったことを訴え続ける。 「そうだよ。おまえんところでバレンタインパーティがあるって話があちこちでしてるのにお誘いがこないから…」 一瞬リキッドのりんごをちぎる手が止まった。が、次の 「そのままみんなで酒のみ始めちまったぜ」 …という言葉に思わずちぎったリンゴを頭めがけて投げてしまった。 ロッドは投げつけられたリンゴが頭に当たるというぶさまなことはせず、しっかりとキャッチし、掌でキュッキュッと軽く拭くと、軽快な音立てて食べ始めた。 てめぇにやったんじゃねえんだ、と言いたいところだが、ここでまたちょっかいを出すネタを与えてはこれ以降の家事の能率に関わると判断したリキッドはムシして自分の作業を続ける。 「だけどねぇ〜たまらなかったよ。あの人、ふっと寂しそうな顔したり、何か物音がしたら入り口の方を思わず見たりとかして…」 聞こえない聞こえないと自分に言い聞かせながらリキッドは次々にリンゴを採って行き、必要な数が揃ったところで木から下りた。 「そーゆー柄じゃねぇって分かってんだったら、それでいーじゃんか。誕生日だろうがバレンタインだろうが騒げるネタがありゃなんでもいいんだろ」 ちゃっかりともう一つ拝借しようとする手からりんごの入った籠を遠ざけ、リキッドは言った。 「だけど切ないじゃん。また一つ老い先短くなったのに、久しぶりに会ったリキッドちゃんにあんなにつれなくされたら…」 「それは日ごろの行いってヤツです。オレにはオレの仕事と役目があんの」 そういって、ロッドに背を向けてすたすたと帰ったのは一月に満たない前の話。 食料調達から帰ってみたら、一ヶ月前のバレンタインパーティのお礼と書かれた果物が、そのときに招待したナマモノの誰かから届いている見て、今更ながらにあの日のことを思い出したリキッドは頭をかいた。 別に申し訳なさとか感じているわけではないのに。 あの後、夕方にハーレムにあった時には、別段何も言いいもせず、いつものようにちょっかいを出されて家事をジャマされただけだった。 そのまま記憶の隅におしやっていた気持ちが、振り払っても振り払っても顔を覗かせてくる。 「…クソッ!」 一つ頭を振ったリキッドは、おもむろに愛用のエプロンを身につけると、採って来た食材を手にした。 「あれ…マーカーちゃん、今日はえらい豪勢だねぇ」 テーブルの上に載っているご馳走の数々を見たロッドが、この島にいついて以来炊事の担当となっているマーカーに尋ねてみたところ、彼は「私はではない」とそっけなく答えた。 「私が帰ったらもうここにこうして並んでいた」 よくみれば、料理の種類や盛り付けが、普段マーカーが作っているものとは違っていた。 「…なんでだろねぇ」 内心、どこからきたのか分からないものを口にするのは躊躇われるが、それらから立ち上るよい香りに抗えずに手を出したところ、 「毒見とはよい心がけだ」 と、マーカーが意地の悪い笑みを浮かべながら頷く。 同僚の悪癖に苦笑しつつ、口の中に広がっていく味に、これを作った人物が誰であるかロッドは確信した。 こっそりとバレバレのことをしなくても、いつでも待ってるのに。 「素直じゃないんだから」 「何か言ったか?」 その一言にきつい眼差しでにらみつけた同僚を、いつもの笑みであしらい、二口目のに手を伸ばしたところ、もう一つの手が伸びてくる。 おや、どうしたこと?と尋ねると、おまえがピンピンしているのなら毒はないのだろうと、と勝手に結論付けたマーカーはロッドがねらっていたものをさらっていき、 「あーひでぇ!」 という、同僚の抗議に、鼻を鳴らして「グズグズしているのが悪い」と反論すると、戦利品を口の中に入れたのであった。 |
|
|
|
□ □□ □□□ |