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Merry Christmas 2004
外気に寒さは微塵もないが、今日はクリスマス・イヴ。
きらめく電飾も浮かれた音楽も何もないが、楽しそうな灯りの漏れる場所があった。
子供二人と犬一匹が健康的な食欲でもって目の前のご馳走を腹に収めていく様は見ているだけでも気持ちがいいものだ。
この日のために(この日だけではないが)身を粉にして準備していた『家政夫』とまで呼ばれている元部下も、疲れた顔をしてはいたが満足そうに笑い、次々とくるおかわりにてんてこまいだった。
子供のためのご馳走がメインで酒の類が置いていないため、ハーレムはもっぱら子供たちが楽しそうに食べるのを眺めていた。
さすがに食べるだけでは間がもたないし、そろそろここで禁じられているタバコも吸いたいし、やはり酒がほしかった。
あらかた食べ終わった頃、彼は唐突に言った。
「じゃあ、オレかえるわ」
「え、もうかえるの?」
『ロタロー』が心底残念そうな顔で言う。
来たときには『オヤジくさい』とか『ご馳走がなくなるよ』とか文句ばかり言っていたのに、そういわれると立ち去りがたい気分になってくる。
「オレ一人だけ抜け駆けしてるのがバレたら締められっからな」
「うそだー。おじさん強いから締められるわけないじゃん」
コロコロと笑いながらロタローはパプワに同意を求める。
話を振られた少年は、一瞬なんと言っていいやらわからない、といった表情を浮かべたような気がしたが、彼は「うむ」とだけ答えた。
「じゃあ、リキッド特製ケーキ、おじさんの分もらってもいいんだよね」
「やるよ」
「え、隊長。もう帰るんですか?」
来たときにはあきらめの表情をしていたくせに、台所でケーキの準備をしていたリキッドは意外そうな顔で振り向いた。
「今日のは力作なんですよ。だからケーキ食べて行ってくださいよ」
そこまで言われては帰るわけにもいかず、座りなおしたところに、リキッドの特製のケーキが運ばれてきた。
アメリカでよく見る長方形の大きなケーキにはたっぷりとチョコレートとアイジングが振り掛けられており、その上に書かれている言葉を見たとき…ハーレムは息を呑み製作者を見た。
「…おまえ、知ってたのか?」
だが、その問いは子供たちがあげた歓声にかき消された。
「わー、すごい!
ねぇねぇ、メリークリスマスとハッピーバースデーって、誰か誕生日なの?」
ロタローがリキッドにたずねた。
「今日はパプワの誕生日なんだ」
「え、そうなの!?。パプワ君お誕生日おめでとう!」
ああ、そういうことか…。
灯りを落として10本のローソクに火をともして、お決まりの歌を全員で歌って、主役が吹き消す。
無邪気に拍手をする横顔に、何度も口にしかけて…飲み込んだ言葉が出そうになった。
初めてのクリスマスパーティーが楽しくてたまらないおまえには…今日はもう一つの楽しくて特別な日でもあるんだぜ、と。
だが、そんなことを知らなくても今日は特別な日だ。
友達の誕生日も一緒に祝えるなんていい日じゃないか。
「じゃあ帰るわ。オレの分はお前らにプレゼントしてやるからよ」
口の周りにクリームをつけた子供たちが口々に礼を言う中、今度こそハーレムは席をたった。
パプワハウスから出てしばらく歩いたところで後ろからかけられた呼び声に振り返ると、リキッドがなにやら手に持って追いかけてきていた。
「隊長、はい、お土産です」
といって差し出されたのはクリスマスのご馳走の一部。
「手ぶらで帰らせたらオレがしめられますから」
手渡された包みはまだ暖かく、そしてかなりの量があった。
ジャマすんじゃねーぞ、とついてこようとしたのを追い払ってまで来たのだから、締められるのは自分も一緒かもしれない。
まあ…アイツらのことだからなんだかんだとやってるだろうが。
四年前までは『クリスマス』という日が自分の上を通り過ぎていくだけ。そして、次にはベッドの横に高く積まれたプレゼントや華やかなクリスマスツリーに囲まれて眠り続けていた。
そんなクリスマスしか知らなかったあの子に、地球上のあらゆる贅沢なものを集めてもかなわないようなクリスマスを贈ってくれた。
まったくもって自分にはできすぎた部下たちだ。
「……ありがとな」
ハーレムからでた感謝の言葉にリキッドは鳩が豆鉄砲を食らったような表情になった。
「な、なんですか。気味悪いですよ」
「うっせー。人の礼は素直に受け取れ」
「はいはい。しかし珍しいこともあるもんだ」
理由はいえないが、礼なら素直に言える。
なんたって今日はクリスマス・イヴなのだから。
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