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正しいおやすみなさいの仕方 act.2



 バスルームに入ると、キンタローはお湯を張り始める。
 ここにきて初めてハーレムは自分が風呂場の中まで付き合うことはないということにようやく気づいた。
 服を脱ごうとするキンタローが決まり悪そうにしているので、彼はそこからでた。


 キンタローが使っているのは、ルーザーが結婚して独立したときに区切った居住区の一部。総帥の弟の住居となると、一般の団員のすぐとなりというわけにもいかず、マジックの家族のフロアの下に設けられていた。
 ルーザーの死後、グンマは高松のところにいついてしまったので実質的には誰も住んでいなかったのを、キンタローが譲り受けて住まいにしている。
 だが、この忘れ形見は住居を自分の好みに整えるというところまで気が回らないらしい。
 見覚えのあるままの住まいに、これまたハーレムはため息が出そうになった。
 まあ、親子で好みが合うというのならそれはそれでいいのだが…。

 風呂に入ってる間に一杯ひっかけるか、と家捜ししてみたがキンタローはビールの類しか持っておらず、仕方なくそれを開けようとしたとき、バスルームから声がかかった。

「…それでどうしたらいいんだ?」
「体でも頭でも好きなところ洗え」
 そう叫ぶと、
「…それはもうさっき……」
 と答えがあった。
 ああシャワーを浴びたとか言ってたっけとハーレムは思い出し…
「温まるまで浸かってろ」
 と言うとビール片手にテレビでも見るかと、居間へと向おうとしたとき…。
「温まったらどうしたらいいんだ?」
 という声がした。
 高松とグンマのヤロー、一体アイツに何を教えてたんだ。
 ついにハーレムはキンタローのいるバスルームに踏み込んでいった。
 ドアを開けたとき、バスタブの中で神妙に湯に浸かっているキンタローがどうしたらいいものかという顔で自分を見上げてきた。

 こういう素直なところがあるのは救いがあると思う。
 
「温まったか?」
「…これ以上入ってるとのぼせそうだ」
「じゃあ100数えたら上がれ」
「100もか?」
「じゃあ50」
 ハーレムはキンタローの律儀に50まで数える声をつまみにビールを煽ると、おかわりを持ってバスルームへ戻った。
「48、49…50!」
 最後の「50」にこめられた力に、自然と笑みがこぼれる。

 子供のころサービスと二人して同じバスタブに入って、一緒に数を数えたはいいけど、二人して同じところでつっかかったり、なかなか次がでてこないのでいるとサービスに先に言われたのが気に食わない、ハーレムが先に言ったとか喧嘩していたっけ。
 喧嘩している間にのぼせてしまって慌てて二人の兄に掬い上げられたとか、考えてみたらバカみたいなことばかりしてた。
 ばかばかしいことかもしれないが、少なくとも自分は楽しかった。
 食べて遊んで喧嘩して、一日の終わりの風呂上りに兄から体や髪を拭いてもらうのがすきだった。
 風呂上りにと長兄の準備してくれていたジュースの味も今でも思い出せる。 アイツは…覚えていないのならともかく、覚えていても知らぬ存ぜぬという顔を貫くだろうが…。
 
 双子の自分たちとは違うだろうが…コイツは何もそんなことは知らない。
 風呂に入って50まで数えろ、とか高松が教えるとは想像もできないのだが。




 湯船から上がったキンタローは全身を桜色に染め、いささかぼぉっとしていた。
「気分どうだ?」
「こんなに長く風呂に入ってたのは…」
 体をバスタオルで拭き、バスローブを羽織ながら思い起こしていたが、思い出せなかったらしい。
「多分初めてだ」 
「のぼせたか?」
「ちょっとフラフラする」
「ほら。水分取れ」
 ハーレムは自分用に持参していたビールを手渡した。
 キンタローは素直に受け取り、自分の寝室へと足を向けた。

 これは案外すんなりいくかも?と思ったハーレムは、寝室に入ってパジャマに着替えた後、ベッドのふちに居直るように座ったキンタローに頭痛を覚えた。

「ハーレムの言うとおり、ゆっくりと風呂に入った。水分も補給した。後はどうすればいいんだ?」
「どうすれば……って、疲れたとかもう寝ようとかいう気持ちはしてねーのかよ」
「特に…ない」
 特にとないの間にあった沈黙にハーレムはさらに頭痛を覚えた。

「いーか。これは訓練だ。一人前の大人になるには、寝るべきときに寝ておくということも覚えなきゃなんねーんだ」
 訓練、という言葉にキンタローの顔が引き締まった。
「難しいことごちゃごちゃ考えずにベッドの中に入ればいーんだ」
 キンタローはゴゾゴゾとベッドの中にもぐりこむ。
「ハーレムもこんな風にして覚えたのか?」
「んなわけねーだろ。ガキの頃は、寝始めは誰かが一緒に寝るんだよ」
「…一緒に」
「まあフツーは親とか年長者が……ってオイ、何だよ、その視線は?
 オレに一緒に寝ろってか?冗談じゃねぇ、こんな狭いベッドに二人も寝れ…」
「でも、正しい寝方を教えてくれるって言ったのはハーレムだろ?」
 あまりにもまっすぐに見上げてくる視線にハーレムは自分が墓穴を掘ったのを認めざるを得なかった。
 ベッドは確かに大男二人が熟睡できるほど広くはない…が寝転ぶだけのスペースはある。
「…分かったよ」
   

 ハーレムはキンタローが開けたスペースに渋々もぐりこむ。
 
「…でどうすればいいんだ?」
 二人並んで布団に入ったところで、キンタローが尋ねた。
 ともすればメモを取り出しかねない真剣な顔つきで。
「じーっと眼を閉じてるのもよし、眠気がくるまで本でも…いや本はダメだ」
 キンタローの部屋に雑誌や軽い読み物などありそうにない。
 あんな分厚い本なんざ読ませたら元の木阿弥だ。

「じゃあどうしたらいい?」
 遠い記憶を手繰り寄せて…この場合何をしていたのか思い出してみる。

 『おやすみ』といって、兄が電気を消すと同時にサービスとゴソゴソと這い出していく。
 長兄も次兄も『子供は早く寝ること』ということに関しては意見が同じだった。
 だが、そんなに早く寝かしつけられても眠れないときは眠れない。
 暗いなかでひそひそと囁き会うように他愛のない話をして、足音がしたら慌てて布団にもぐりこんでいた。
 そっと控えめに扉が開いたときには『起きていたのかバレたらどうしよう』とドキドキしていたのだが、優しい眼差しが見つめているのが分かると安心し、いつしかそのまま眠ってた。




 昨日のことのように蘇った記憶の断片が、ハーレムに心地よいまどろみをもたらし始めた。
 何度かキンタローが何かいいたげに口を開いては呼びかけるのをに反応するのももう面倒くさくなってきている。
「ハー…」
 いつまでも諦めないキンタローに、ハーレムは寝返りを打って背を向けた。
「……そのまま目をつぶって寝てろ」
 さっきまでの意気込みはどこに行った?といいたくなるような力の抜けた声がした。
 だが、それは意外にも耳に心地よく響き、それに隣のハーレムから伝わってくる体温が気持ちいい。
 頭の中に靄がかかってくる。

 一つ大きくあくびをしたキンタローは、いつまでこのままでいなければいけないかと悩み、聞いてみた。
「…目をつぶってそれから?」
 ハーレムから答えはなかった。

 代わりに聞こえてきたのは規則正しい寝息。
「ハーレム…」
 どうしたらいいんだ?ともう一度いいかけてキンタローはやめた。

 こんなに気持ちよさそうに眠っている相手を起こすのはよくないという気持ちがそうさせ、キンタローはもう一度寝る体勢を整えるためにシーツの中で体勢を入れ替えたが、暫くしてハーレムの方を向いた。

 エアコンも効いているし、それにとくに今日は寒い日だというわけでもないのに、そこにある温もりが心地よくて、貪りたいとまで思い始めた。

 キンタローは背を向けて寝てしまったハーレムの肩に手を掛け、こちらを向かせる。
 ハーレムはかすかなうめき声こそ上げはしたが、目は覚まさなかった。

 そこで、キンタローはハーレムの懐にもぐりこむように身を寄せる。
 

「おや…み…ハーレ………」
 それでも、最後まで「就寝のための手順」を守ろうとしていたのは見上げたものだったが、それを教えた叔父が知ることはなかった。





 翌日、キンタローを診察した高松が、
『ハーレムと寝るのがあんなに気持ちのいいことだとはおもわなかった』
 と告げられた瞬間天井まで鼻血を噴き出し、その後メスを両手に特戦部隊の控え室まで走っていったというエピソードは、末永くガンマ団の中で語り継がれたという。


Fin




本来は裏でしているお題の中の一つとして書き始めたものだったのですが、
(高松が渡す薬のあたりにその名残があります(笑)、どこまでも天然で一所懸命なキンちゃんのおかげでエセほのぼのなってしまいました。
高松が渡した薬は…実は本当の導眠剤ではなかった、というネタもあったんですけどねぇ。
(医者が診察もせずに投薬するわけにはいかないし…ってこのドクターの場合は
そういいきれないのがちょっとコワイ(笑)
上手いこと設定生かせずに終わったのでちょっと反省。

BL要素(24と43でBLというのはかなり苦しいけど)を諦めた後、見た目も大人で、頭もいいから一人前と認められている、それは嬉しいがまだ心はついていっていない、という落差をテーマにしたつもりが…うーむうーむうーむ。

最近、キンちゃんは『どっかが抜けてるところが愛らしい』キャラになってしまったので、このテーマでまた挑戦してみたいです。






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