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「罰として一週間の独房入りだ」
「えーっ、そりゃねぇぜ、兄貴!」
勝手にハリアーを持ち出し、勝手に敵対国の領土スレスレを飛行して、たどり着いた先で一人で七機のヘリを撃墜したハーレムは口をとんがらせる。
「バカモノー!自分が何をしたのか分かっているのか、おまえは!」
マジックは思わず机を拳で叩いた。
「いーじゃねぇか。結果オーライなんだしよ」
突然飛んできたエネルギー波にヘリ七機を一瞬のうちに全滅させられた敵は、未知の兵器が配備されたものと思ったらしく…三日も待たずしてEブロックの勢力図がガンマ団に有利に塗り替えられ戦況は好転した。
マジックが弟の死の復讐として新兵器を投入したとか…色々な憶測が飛び交っているが、どれ一つ的を得たものはなかった。
「自分の尻拭いもできないうちは勝手な行動とるな。
あれから私がどれだけ不眠不休で…」
それを言われてはもう一言も言い返せない。
勢力図が変わったことで人員配備、人が動けば物資も動く。
物資を動かすには資金が動き…。
これ以上はハーレムには想像もつかない。
分かったのは、自分のスタンドプレイは巨大な組織となったガンマ団を束ねる兄に白髪の一本もプレゼントしたかもしれない、ということだけ。
「すまなかったよ、兄貴」
弟の殊勝な謝罪の言葉にマジックは、もういいとばかりに手を振った。
「…分かったならこれ以上私に心配の種を増やさせないでくれ。
戦場の常だと分かっていても…」
マジックはそれから先の言葉を飲み込んだが、ハーレムには彼が何を言いたかったのか分かっていた。
「心配させてごめん…」
もう一度『もういい』とマジックは言い、疲れた表情で額の汗をぬぐう。
…が、子供のころからやんちゃで手を焼かせてきた弟が顔を輝かせ始めたのを見て、眉をひそめた。
「そうそう。兄貴、オレ考えたんだけどな!」
ハーレムは基地から帰るときからずっと頭の中で考えていたことを、切り出した。
機動性と柔軟性のある部隊が欲しい。
数ばかりのボンクラでなくて装備や設備に左右されないような…。
名前を聞くだけで相手が震え上がって逃げ出すような少数精鋭の部隊が…。
だがせっかくの熱弁も兄には戯言でしかなかったらしく、マジックは見る見るうちに額に青筋を立てはじめる。
「そして世界中を飛び歩くんだ。どこの戦場にもすぐに駆けつ……うっ」
いい加減にしなさい、とにこやかにいう彼の右の掌に青白い光が集まっているのが見えた時、ハーレムの口は急停止した。
そして引きつり笑いを浮かべたまま、部下たちに両脇を固められて独房にお持ち帰りされてしまった。
まあいっか……。
閉じ込められた独房の硬いベッドに寝転んで、陰鬱な色に変色している天井を見上げる。
ルーザーは死んだのだ。
突きつけられた真実はそれだけしかなかった。
ただそれを確認したかった。
それが故に兄を困らせ、多くの人間を振り回したのは反省しているが…それを確認したいという衝動を堪えるのは不可能だった。
でも…確認できたからといってそれで満足した自分がいるわけではない。
むなしさだけが、静寂と孤独の中でのしかかってくる。
「う……」
頬を冷たいものが伝っているのに気づき、指で掬ってみた。
出てきた場所がどこであるかを知り、ハーレムは顔を歪め、毛布を頭から被る。
独房の看守が物音に驚いて覗き込んだが、彼が見たのは硬い毛布の中からのぞいている豪奢な金髪だけだった。
ハーレムが何かしでかしたわけではない、と知り安心した彼はそのまま見回りに戻ったため、この夜…かすかに漏れ続けていた物音に気づいたものは誰もいなかった。
…そしてハーレム自身もそれが何であるかを拒み続け…やがて、記憶のもっとも深い奥底に投げ落とした。
2005/09/25 改題
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