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大きなたまねぎの下で act.1


「な、なんだこれは」
 突然響いた素っ頓狂なマーカーの声に、共に補給物資のチェックをしていたGが、これまた珍しいことに、意外そうな顔をしてふりむいた。
 
「これは何だと思う?」
 Gはマーカーが指差す箱の中身を見た。
 彼が指差すガンマ団のマークのついた箱の中に詰め込まれている物体。
 それ自体はどこででもよく見かけるものなのだが……。
「……タマネギだろう?」
 数十秒にわたる沈黙の末、自信なさそうにGは答えた。
「私の知っているタマネギの常識を覆すサイズなのだが…」
 それはGとて同じだ。
 沢山のタマネギの中の一つがそのサイズなら、あ、突然変異か、くらいで済んでいたものの、箱の中に詰め込まれているもの全てが直径30センチをくだらないタマネギだった。 
 Gは慎重に箱の中身をハンカチごしに手に取り、隅々まで注意深く観察する。
「………………やはりタマネギだ」
「タマネギとはいつの間にこのようなサイズになったのだ?」
「オレに言われてもしらん」
 Gは気になっていたことを尋ねた。
「爆発物検査はしたのか?」
 タマネギ型爆弾というものにお目にかかったことはないが、もしかしたら開発されたのかもしれない…いや、もしかしてこれを使って破壊工作する作戦が、今ハーレムがいる作戦会議室から出されているのかも………。
 …と愚にもつかないことを考えたGに、マーカーはあっさりと否定した。
「反応はなかった」
 タマネギに仕込まれていた爆弾で死にたくはない、という願いはかなったのはいいが
…。その前にこのサイズでは真っ先に不審物に分別されてしまうか。

「毒物反応は…」
「それはここでは調べようがない。隊長に連絡してくる。Gはこれを見張っていてくれ」
「分かった」

 
 
 連絡を受けたハーレムは、暫く沈黙したあと
「そっちに戻る」
 とだけそっけなくマーカーに告げ、マーカーは残りの補給品の点検に戻った。
 そしてそろそろ戻ってきてもよいころなのに、とマーカーが思い始めたころ、倉庫のドアが開いた。
 そこに立っていたものの姿を見て、マーカーとGは目を丸くする。

「…確認します。ハーム隊長ですよね?」
 恐る恐る尋ねたマーカーに相手は頷いた。
「そうだ」
 放射能防護服に身を包んだ相手は間違いなくハーレムのようだが…。
「何か放射性物質が詰め込まれたという恐れがあるのですか?」
 マーカーだけでなく、さっきから一緒にいたGと、計器類のチェックを終えてやってきたばかりのロッドも顔をこわばらせる。
「これしか間に合わなかったんだ。バイオハザードも放射能も似たようなもんだろうが」
 いや、別物なのだが…というツッコミをする者は誰もいなかった。
 作戦本部から戻ったハーレムがこういう姿をしているというのは、彼は独自にこれの正体について知らされているというのだろうか?それならそれで自分たちにも防護服を着用させもらいたいものだが…。
 
「問題のブツは?」
 ハーレムの言葉に三人はハッと我にかえり、第一発見者であるマーカーが箱のところにハーレムを案内した。
「これです」
 箱の中身がハーレムの前に曝け出されたとき、恐ろしいほど空気が凍りつき、沈黙が流れた。
 全員がその場でハーレムがどうでるかに注目した。

「そいつの蓋をしめろ」
 その一言で全員に緊張が走り、あたふたとガムテープが準備され、手早く封印される。
「真空密封用ボックスを持ってこらせますが…」
「そんなもん待ってる時間あるか。ロッド、そいつをもってオレについてこい」
 なんでオレが?というロッドの文句は押し付けられたタマネギ入りカートンに封殺された。



 ロッドはなんと言っていいのか分からない顔つきで神妙にハーレムの後を付いていこうとしたが…
「オレの半径3メートル以内に近寄るんじゃねぇ!」
 と、一喝されてしまった。
「そ、それはいいけど、どこに行くかくらいは教えてくれてもいいでしょう?」
「高松のラボに決まってんだろうが」
「あそこで調べてもらうんですか?」
「…こんなばかげたもの作るところっていったらあそこしかねぇだろが」
 確かにそうだけど…。
「オレに近寄るんじゃねぇって言ってんだろが」
 ああ…そんな大きな声で怒鳴らないで…とロッドは泣きたい気分になった。
 防護服を着るハーレムについていくおかげで、団員の視線が痛いほどに突き刺さる。
 それだけならいいが、そんなに危険なものかもしれないのなら自分にも着せてもらう、もしくは厳重な箱に入れて移送させてもらいたい…。
「そういわれましても…」
 二人がついたのはエレベーター。
 ここでもハーレムは、ロッドに別のエレベーターに乗るように命令する始末。
 そんな危険物(らしいもの)と一緒にいた数十秒は生きた心地もしなかった。

 先にエレベーターが着いたロッドはハーレムのエレベーターが到着するのを待ち、ラボの研究員たちが異様なものを見る目つきで自分たちを見ては目を反らす中、二人は奥にあるドクター高松のラボにたどり着いた。









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